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2011年5月9日

『母の日』より

 
 今僕の家にはおばあちゃんが来ている。

今日から数えてちょうど2日前。

ゴールデンウィーク中に僕の両親が連れて来た。
宮崎県の市内からずいぶん離れた田舎町。
そこにおばあちゃんはおじいちゃんと二人で暮らしている。


父方のおばあちゃんは、僕が小学校の時に死に
おじいちゃんは僕が産まれて死んだ
だから僕の名前にはおじいちゃんの一文字が入っている。

今、面と向かって
おばあちゃん。
おじいちゃん。
と言えるのはこの二人だけなのだ。


おばあちゃんはとても気が小さく、弱音ばかりを吐くようになった。

年を重ね、その小さい背中や心も、まるく小さくなってしまった。

少しずつボケても来ている。

とんちんかんな事は言わないけれど、同じことを何度も何度も口に出す。
でも、年を取るってそう言う事かもしれない。

僕はふと、そう思った。


「背が伸びたんだねぇ。」

僕の顔を見て、感心そうに声をもらした。


「そんな事ないよ。これでも大学時代に2cmも縮んじゃったんだ。」

僕は会話を楽しむ素振りでそう答えた。


それでもその2分後には
「やーっぱり、背が伸びたんだねぇ。」
と、母に向かって感心しながら言うのだ。

そんなおばあちゃんを連れ
母は「母の日だから。」と買い物へ出かけて行った。


「そうか。今日は母の日か。」

全く何も考えていなかった僕は、なんだか複雑な気持ちになった。



後で話を聞けば、おばあちゃんはそんな気持ちなどそっちのけで、
いつものように「きつい、きつい。」とつぶやきながら歩いていたようだ。

母が買って来たお土産のドーナッツを夢中に目で追いながら
僕は、「ふ~ん。」とそんな母の話も上の空であった。


テーブルでもぐもぐとドーナッツをほおばる。


その僕の横におばあちゃんはゆっくりと腰掛け、

「背が伸びたねぇ。」

と、また言うのだから、困ったものだ。




「ピーンポーン」
と、高く一回。部屋の片隅にあるインターホーンが鳴った。
母は受話器越しに返事をすると、さっさと部屋を出て行った。

ふと横に目をやると、半分に切ったドーナッツを食べ終えて、冷たいお茶を
ゴックンゴックンとのどを鳴らしながら飲んでいるおばあちゃんがいる。
と思えば「ツィー ツィー」と歯の隙間に詰まった物をとろうと音を立てている。

そして
「はぁ。お腹いっぱい。」と言って、向かいのソファの前にちょこんと座った。



しばらくの沈黙の後、戻って来た母がニコニコしながら何やら紙袋を両手で抱えていた。


「お母さん。」


と一言ささやいて渡したその紙袋に、おばあちゃんはキョトンとしていた。



それは、母の妹であるおばさんからの贈り物。おばあちゃんへの母の日の祝いであった。

母も一緒に手伝いながら、一つ。一つ。と紙袋の中の包み紙を破いていった。
「ペルリ ペルリ」と音を立て剥がされていく紙と共に
おばあちゃんも意味を少しずつ理解していくようだった。


「これはお母さんに。」

そう言って手渡した,
木で作られた、クマのポストカード。

それでもおばあちゃんは不思議そうな顔をしている。


中には、これからの季節にぴったりなブラウス。
コロンとした、色鮮やかなマカロン。そして抹茶の缶が添えられていた。

その抹茶の缶を手に取り「入れてくるね。」と、足早に母はキッチンへと向かった。


僕はと言えば、まだ残りのドーナッツを口にモゴモゴさせながら、その光景を横目で見ていた。


ふと何気なく、おばあちゃんを見れば、ソファの前にちょこんと小さく体育座りをしている。

ひざを抱え込んだ左手とは逆の右手にはさっきのクマのポストカードが握られている。

「わかってんのかなぁ。」

僕は少し疑問だった。

おばあちゃんは、しばらくそれを「クルリ クルリ」として、裏と表を交互に覗き込みながら・・・・

おばあちゃんは小さく微笑んだ。

それはため息が空の彼方へスーっと消えてしまうほどの小ささだった。




なんだか微笑ましいその光景に
僕も小さく小さく微笑んだ。



そんな、歳をずいぶんと感じさせるおばあちゃんの笑顔を見て
本当に少しだけ暖かくなった。

今日は母の日。母にとってもそれは変わらない。

そして僕の母もこうやって歳を取り、毎日は繰り返されるのかなと思うと
「母の日」。なんだか当たり前のように通り過ぎて来たこの日を
ちょっと大事にしてみようかなと。そう思える日になった。

一年に一度くらい誰かがほっこりとする。そんな笑顔の瞬間があっても良いのだと

僕はそう思えた。


「今日は母の日」より







皆さん今晩はB.10通信です。


本日は「今日は母の日」よりお送りさせて頂きましたが・・・・何か母の日たる事はしましたでしょうか?

まだ明日(今日)でも間に合うと思いますよ!!

忘れていた方がいるのならばぜひ。



大丈夫!!
私もその一人ですから。



では今日は手抜きだと言われた記事も加えた『三本』でお送り致しました。